口は災いの元













朝。部屋に差し込んできた眩しい朝日を感じ、葵はゆっくりと瞼を開いた。




起きた途端感じる、違和感と懐かしさ。
いつもとは違う何か、違和感。遠いつかの日常、懐かしさ。


同時に存在する正反対の感情に、葵は急かされるように身支度を整え、部屋をでた。


そう、その原因はどこかから漂ってくるこの匂い。
懐かしい、故郷の料理を思わせるこの香り。

けれど、アロランディアに日本食はないようだし
騎士院では、食事の良い匂いが風に乗って運ばれてきたことはあっても、
今までこんな匂いが漂ってきたことはない。




それが、葵に違和感と懐かしさを感じさせた理由だった。




食べ物の匂いなのだから、発生源は台所だろう。
そう思って、葵は真っ直ぐに台所に向かった。

こっそりと顔を覗かせて、滅多に足を踏み入れない台所を覗き見ると
そこに立っていたのは、見慣れた人物だった。

青い、普段見に纏っているマントと似たような色のエプロンを付ける姿が、妙に様になっている。

葵が彼の名前を呼ぶよりも少し先に、彼が葵に気が付いたようだ。




「おはよう、葵さん。」




振り返りもせずに名前を呼ぶリュートに
葵は一瞬いたずらを見つかった子供のようにビクッ!と体を竦ませた。




「う、うむ!リュートも早いのう。・・・アークはまだ寝ておるのに。」


「ははは、アークが早起きなんかしてた方が怖いよ。」


「それもそうじゃな・・・時にリュート。おぬし、何をやっておるのじゃ?なにやら良い匂いが・・・」


「あ、やっぱりそれでここまで来たの?」


「う、うむ。そうだが・・・」


「・・・なら、上手く出来てるって証拠かな?」


「??何を言っておるのだ?話がみえん。」


「昨日、朝からマリンさんが来ていたでしょう?
葵さんに聞いた話と、彼女の料理を参考に僕も作ってみようかと思って。」


「作るとは・・・もしや・・・」


「そう、日本食ってやつだよ。・・・ねぇ、どうして葵さんが声をかける前に
僕が君に気付けたのか、わかる?」


「・・・わからぬ。」


「この匂いに食欲をそそられてやってくるのなんて、葵さんだけだと思ったからだよ。
他の人は、焦げ臭いとかなんの匂いだって言って、近寄ってこないから。」


「そ、そんなものか?」


「うん、そうだよ。・・・あとちょっと待ってね、もうすぐ出来るから・・・」


葵の問いに笑って答えて、リュートはそれからすぐに視線を自分の手元へと戻した。






間もなくしてテーブルに並べられたのは、白いご飯に焼き魚と
キレイに渦巻き模様が出来ている玉子焼き。
簡単なものだが確かにそれは日本食で、魚もマリンのときとは違って焦げてはいなかった。(酷)

玉子焼きを眺めて、器用な奴だと改めて思いながら、葵は席につく。
しかし、見た目はばっちり日本食でも、とんでもない味だったのはつい昨日のこと。
・・・まぁ、あれはあれで美味しかったのだが、決して日本食とは言える代物ではない。
日本食なのは見た目だけだった。

でも今回は素材そのままの物ばかりなので、そこまで見当違いの味、
ということはなさそうだけれども。




如何せん、こちらの料理は味付けが濃い。




・・・そう、葵は思っている。想像以上に腹にたまるとでも言ったら良いのだろうか。
やたらと脂っこかったりするのだ。

パクリ、と。玉子焼きを1口含む。
正面では、リュートが味が気になるのか、神妙な面持ちでこちらを見ていた。




「・・・美味いっ!」




葵がそう言うと、リュートはあからさまに安心した表情になる。




「本当?・・・良かった。」


「うむ、本当に美味いぞ。マリン殿の料理もおいしかったが
これは私の知っている日本食の味に近い!・・・リュートは良いお嫁さんになれるな。」




満足そうに用意された食事を食べながら、しみじみと言う。
葵の言葉に、リュートは瞳を丸くした。




「えっ!?・・・あ、葵さん?僕、男なんだけど・・・」


「あ!す、すまぬ!!昨日マリン殿にそう言ったのでな、つい・・・」




ハッ!としてそう言い訳をする。・・・頬に、血が上るのがわかった。




葵のは天然だということを、今までの経験で嫌と言うほど知っているリュートは
そう言って恥ずかしそうにする葵を苦笑しながら見つめた。

それから、優しげにその瞳をスッと細める。穏やかな、笑顔。




―――――――――― ・・・でも、それも良いかもね。」


「・・・は?」




今度は、葵が瞳を点にする番だ。
サラリと笑顔で発された、リュートの爆弾発言に。
葵はもう少しで危うく、出された麦茶らしきものを吹くところだった。

固まったまま、ポカンと口を開けてリュートを見上げる。
葵の様子に、リュートはますます笑みを深くして・・・




「じゃあ・・・葵さん、貰ってくれる・・・?」




微動だにしない、変わらぬ笑みでそう問いかける。
問いかけてはいるものの、断らせる気は毛頭ないらしい。




「リュ、リュート・・・??(汗)」




それを感じ取ったのか、葵の声が上擦る。
その笑顔の持つ、妙な、どこか抗えない迫力に、葵は思わずイスに座ったまま体を引いた。
葵に対し、リュートは二人の距離を広げないよう、葵が引いた分だけズイっと詰め寄る。


早朝の爽やかだったハズの場面には、いつのまにか互いを推し量るような雰囲気が流れ始め。
勿論そんな危険な現場に、自ら首を突っ込む酔狂な人間はおらず。
・・・だんだんと時間が経過するにつれ、葵が劣勢になっていく。





・・・この場に、アークがいたら間違いなくこう言っただろう。



『笑ってたけど、瞳が本気だった。』



・・・と。





このあと。結局、葵がリュートをお嫁(!?)に貰ったのか貰わなかったのか。
はたまた無理矢理押し掛けられたのかは、本人達のみ知るところである。




















戯言。


別名、羊の皮を被ったリュート(爆)
逆転カップルのように見せかけて実はそうでもないリュート×葵。

アークだったら口ケンカになったり、そうじゃなくても葵さんが悔しがりそうですが
リュートだと口ゲンカに発展する以前に、完全に葵がリュートに呑まれてそうです(笑)

押して駄目なら引いてみろってことですか?
それでも駄目だったら襖のように横にスーっと押せば、案外開くのかもしれません。
リュートの場合押す引くよりも襖希望。
みんなが開かない!っていってる所に横からやってきて、簡単に開けてしまうのです。
・・・なに言ってるんでしょか、自分は。
最近ぼーっとし過ぎです、眠。

日本食は、アロランディアで何が作れるんだろう?
と一生懸命考えましたが浮かばないのであんなものに。
オムライスがあるんだから卵はOKでしょ?けど大根も通じないらしいしなぁ。

実際日本食の匂いが他の料理とどう違うのかは謎ですが(苦笑)
いや、お味噌汁とか、なんか匂いに特徴のあるもの出せたら良かったんですけど
材料とか考えると無理っぽいかなーと。
焼き魚の焦げ臭い匂いということで(爆)

・・・しかし、玉子焼きはシンプルだからこそ腕の良し悪しのわかる食べ物ですよ。
きっとリュートなら、キレイにくるくると巻いてくれるでしょう。
あ、食べたい・・・(お前がか。)




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