正しい入浴講座 葵がアークの部屋に行くと、彼にしては珍しく訓練でもしていたのか アークはシャワーを浴びて、バスルームから出てきたところだったらしい。 アークはズボンにYシャツ1枚というラフな格好で タオルで髪の水気をガシガシと拭きながら、片手でドアを開けて、葵を部屋へ招き入れた。 その行動に、うっかり夫婦みたいだなんて思ってしまい、妙な気恥ずかしさに襲われたが “でも、もう一応恋人同士なんだし、全然可笑しくなんかないんだ!” と、アークは自身に言い聞かせる。 「・・・邪魔をしたか?私は出直して来たほうが良かったかのう?」 「別にいいよ。・・・丁度今、出たところだったんだし。」 そう言いながら、チラリと葵へ視線を走らせる。 けれど葵は特に変わった様子もなく、いつも通りだった。 アークの髪から、水滴が滴り落ちる。 その光景は、まぁ・・・見る人が見れば、思わずドキっとしてしまいそうな。 妙に色気のある姿なのだが、根っからの天然である葵には、さっぱり通じないらしい。 動揺する気配すらも、微塵も感じられない。 恋愛沙汰とは疎遠だったせいか、異性と手を繋ぐことですら頬を染めるのだから いつも通り変わらない、ということは。 ・・・彼女は今のアークの格好を見ても、なんとも思っていないのだろう。 邪魔をしたかも、というぐらいで。 思わず溜息を吐く。 自分を信用しているのか、あるいは男として見られていないのか。 いや、けどこちらの好意は伝えたんだし・・・。 ・・・考えただけで頭痛がしてきそうな気がして、アークは額を押さえた。 脱力してイスに座ったアークの手から、タオルが奪い取られる。 ・・・今、部屋には2人しかいないのだから。それは勿論葵の仕業で・・・ 「全くおぬしは。・・・きちんと拭かないと風邪を引くぞ。 マリン殿も、私があれほど言ったのにそのままにしたらしくてな。風邪を引いたと言っておった。」 そう呟いて、アークの髪の毛をわしゃわしゃと拭き始めた。 ・・・星の娘候補の3人は、とても仲が良い。 中でも年長者だからか、葵はどちらかといえば、他の2人の面倒を見る側で 実の姉のように、2人の面倒を見ている。 確かに、周囲から見れば葵が1番しっかりしてるように見えるだろうし、 可笑しくはないのかもしれない。 けれど彼女達を良く知っている身としては、実は1番危なっかしいのは葵だと思う。 何しろ葵は天然だし、しかも世間の風習、一般常識に疎い。 ・・・まぁ、元々住んでいた世界が違うのだから当然といえば当然なのだけれど。 一般常識の知識が欠落しているのは、痛いと思う。 それに、あんな性格をしているくせに結構な身分のお嬢だったらしくて 料理は上手くないし、裁縫だって出来やしないし。 しかも妙に正義感だけは強くて、どんな面倒事でも首をつっこむし 己の信念とやらに基づいて突っ走るし・・・・・・ と、ともかく!見てるこっちは気が気じゃないんだよ!! (↑照れてるらしい。) 内心そんなことを思っているとは露知らず。 そ知らぬ顔で子供に接するように、俺の髪を拭く葵が、あまりに憎らしくて。 ・・・お前は俺の親にでもなるつもりかよ? そう言いたくなるのを必死に堪える。 言ってしまえば、待っているのはいつもの展開に違いないから。 「・・・あーそう・・・そりゃ大変だな。」 ・・・ただちょっと、葵の・・・男の手とはやっぱり違う、細い指が。 自分の髪の毛を撫でる感覚が、気持ち良かったりした・・・。 「・・・のう、アーク。」 耳元で囁くような葵の声がして、一瞬大声を上げて叫びそうになる。 バクバク早鐘のように打つ心臓を必死に抑えて、出来る限り平静を装った。 お、俺がドキドキさせられてどうすんだよッ!!(汗) 「な、なんだよ・・・」 「おぬし、大浴場で湯浴みをしてきたのか?」 「あ?・・・あぁ、ちょっと汗掻いて気持ち悪かったから、シャワー浴びたんだよ。 お前の部屋にもついてんだろ。」 「・・・あれはシャワーというのか。」 「・・・って。お前、知らなかったのかよっ!?」 「仕方が無かろう。あのような物、私の故郷にはなかったゆえ・・・。 なるほど、もしやとは思っていたのだが湯浴みをするものだったのか、あれは。」 「じゃお前、今までずっと。個室についてるシャワー、使ってなかったわけ!?」 「使い方がわからなかったからな。・・・ずっと大浴場に行っておった。」 「―――――――――― ・・・マジかよ。お前良く今まで無事だったな。」 「うむ。リュートに浴場は何処かと訊ねたら、なにやら私が入るということは あまり人に知られない方が良いのだと言うのでな。他言無用だと言われた。 それから、湯浴みをするときにはリュートが見張ってくれておったのじゃ。」 リュートの提案が、好意だけだと信じて疑っていない葵。 ・・・実際は、とてつもない裏があるのに。 「・・・チッ!あいつ上手いこと事運びやがって・・・」 忌々しげにそう、小声で吐き捨てる。 ・・・葵とアークが恋人になっても。リュートはサラサラ引く気はないらしい。 寧ろ、以前よりも頻繁に邪魔をしてくるようになったぐらいだ。 「・・・アーク?何か言ったか?」 葵が首を傾げる。 「いや、なんも。・・・けどさ。お前、俺って言う恋人がいるんだから もうリュートになんかに見張らせるんじゃねぇぞ。俺に言えよ。」 「・・・う゛。」 “恋人”・・・そう口にすると、案の定葵は顔を赤くして、言葉に詰まった。 けれども、ここはしっかりと確認しておかなければならない。 「い・え・よ?」 見上げると、葵と瞳が合った。 ただでさえ赤かった葵の顔が、アークと視線が合ったことで余計真っ赤になる。 「・・・・・・・・・・・・わかった。」 恥ずかしそうに視線を彷徨わせた挙句、渋々了承する。 ・・・お前、俺以外の男にそんな顔して見せたら、どうなるかわかんねぇぞ。 なんてアークが思っていると、葵は余程話を逸らしたいのか、すぐに別の話題をふってきた。 「・・・し、して!あれはどのように使うものなのじゃ!?」 「あれって・・・シャワーのことか?」 「うむ、それじゃ。」 ・・・教えてやるぶんには一向に構わない。 でもさ、用途を考えて見ろよ?口頭で説明するより やっぱり実際にどうやって使うのか、やってみせる方が早いだろ。 ・・・・・・。(黙) 自分の頭に浮かんだ考えに、アークはこっそり笑みを零す。 でもそれもすぐに、普段見せているものにすり替えて・・・ 「・・・・・・・・・教えてやろうか?」 いくら親しくなったとは言え、こういった日常生活の根本的な知識は 流石に他の者には聞きづらい。 けれど、アークやリュートなら平気だと。 どこか思ってしまっている葵は、躊躇いもせずそれに頷いた。 「そうだな、頼もうか。」 アークは気を抜いてしまえば漏れそうになる笑みを、必死に押し殺した。 今、ここで笑ってしまえば。 ・・・自分の考えている魂胆がバレてしまえば、彼女は怒って出て行ってしまうだろうから。 「――――――― ・・・いいぜ。」 そう、答えて。葵をバスルームへ促しながら ・・・後ろ手に、部屋の鍵を閉めた。葵には、決して気付かれないように。 葵がもう二度と、アークには聞かないと誓いをたてるまで・・・あと、数時間。 |
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戯言。 また任那の煩悩炸裂してしまいましたね。 騎士院って男所帯らしいじゃないですか。(シリウスがムサイを連呼してるので) だったら、全員共用の大浴場じゃないかなーと思ってみたり。 途中でドライヤーを出そうとして、流石にドライヤーはないか、 電灯じゃなくてランプだもんなぁ・・・と思う。 ・・・じゃあシャワーはあるのか?と言われると痛いのですが。 書いちゃってから気付いたのであるということにしといてください。(苦笑) 葵はアークに謀られたと言って怒り狂うのですが やっぱり、彼女が頼るのはアークとかリュートになっちゃうんだろうなー。 しっかし、アホらしいことこの上ないタイトルですねー(呆) |
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