普段葵は比較的早起きだ。
けれど彼女も人間だから、それでも時々起きてこないことがある。

大抵はその前の日に剣の練習をし過ぎたとか、夜中騒動があったとか
そんな日の後のことだったが。

・・・そんなとき。いつも葵を起こしに行くのはアークの役目だ。
あんまり親しくない奴に部屋に入られるのも嫌だろうし、なによりも葵は女だから。

リュートはリュートで何を遠慮しているんだか、
葵に悪いとか言って頑なに起こしに行こうとはしない。
アークに言わせてしまえばそんなもの



『悪いも何も、起こさなきゃどうにもなんねーだろうが。』



で済んでしまうのだが。


足音を盛大に響かせて、ズカズカとアークは葵の部屋に入った。
布団・・・とか言うヤツで葵は寝ていて、彼女の耳元で、アークは面倒臭そうに叫ぶ。

いくら部屋にズカズカと入れるからといって
いつもサバサバとした印象を受ける葵が無防備にスヤスヤと寝ている、この普段とのギャップ。
・・・その光景は決してアークの精神状態に良いものではなくて・・・


つまり。そこそこ早めに起きてもらわないとはっきり言ってキツイ。



「・・・おい!起きろよ、葵!!」

「・・・んー・・・」

「さっさと起きろッ!!」

「ん・・・もう・・少しだけ・・・・・・“―――――― ”」





葵の口から漏れた言葉に、アークはピタリと動きを止めたのだった。










Call My Name










面倒くさい・・・とは確かに思った。
けどさ、好きになった女起こしに行けって言われて、嫌がる理由なんかねぇし
ちょーっとばっかし、甘いなにかを期待してなかったわけでもない。




「誰だって言ってんだよ!・・・誰と間違えやがった!!」

「だから!私の探している“紅丸”だと言っておるではないかっ!!」




まさか、他の誰かに間違われるなんて思ってもいなかったから。
・・・・・・誰だって、怒りたくなるだろ?

寝ぼけてた?そう、葵は寝ぼけてたんだ。
だから余計にムカツク。無意識に出た名前だから・・・




「刀が人起こすなんて話、聞いたことがねぇんだよッ!!」

「“紅丸”は式じゃ!本体は刀じゃが、人の形をとることも出来る!!」

「はぁッ!?なんだよそれ!
・・・例え人間になれたってなぁ!どうしてソイツと間違えたんだよ!?
―――――――――― ・・・やっぱりお前の・・・“コレ”なんだろ?」

「違うと言うに!どうしておぬしはそういう方向にしか物事を考えられんのじゃ!?」

「しょうがねーだろ!?そういう方向しか思いつかねぇんだからよ!!」

「開き直るでないッ!!」




そう言い捨てて歩いていこうとする葵の肩を掴んで、力任せに振り返らせる。
・・・このどす黒い感情にだけは、気付かれないようにと願いながら。






―――――――――――― ・・・で?」






「・・・ん?」

「どうなの?その“紅丸”とかってのは、お前の・・・・・・何なの?」



声に、視線に。



潜ませた得体の知れない“何か”を、本能的に察知したのか。
ちょっと困ったような顔をして、葵は顔を逸らした。

けれど逃げようとはしないで、仕方が無さそうに口を開く。

賢明な判断だ。けどさ、
その勘の良さを、もっと別のところにも使ってくれると助かるんだけど・・・?




「・・・紅丸は・・・私の、家族のようなものだ。」

「家族?」

「そうじゃ。幼い頃から、家族のようにずっと共に居た。
・・・いや、家族よりも一緒にいることが多かったかも知れぬ。」






・・・逆効果。

そんな顔で話さなければ、家族みたいなモンかって安心できたかも知れないのに。

なんだか妙に優しい顔をして、嬉しそうな顔をして。そいつのことを話すから。

――――――――― ・・・大切なんだ。

俺よりまだ特別なんだって、わかっちまうから・・・




―――――――――――――――― ・・・ズルイ。

こんなに想われてんのに、今。コイツの傍にいない奴・・・


――――――――――――― ・・・悔しい。

これじゃ完全に俺の負け。・・・ただの、一方通行な嫉妬だ。




「・・・・・・。」

「・・・アーク?」




今度は黙ってしまった俺に、一体何がどうなっているのかと
不安そうな顔をした葵が俺を見上げる。

・・・・・・俺の中で渦巻くこの感情も、その名前すらも知らないで。




――――――――――――― ・・・決めた。」

「何をじゃ?」

「葵。・・・お前、罰として今日から1週間。俺を起こしに来い。」

「・・・なッ!何故私がそのようなことをしなければならぬ!?」

「・・・折角、飯の時間割いてまで起こしに行ってやったのになぁ・・・」




基本的に葵はリュートと同じで真面目だから。
こういう手に弱いってのも重々承知。




「・・・・・・う゛。」

「・・・なのに。他の誰かに間違われた挙句、感謝の言葉もない。怒鳴られはしたけど。」

「・・・それは・・・!」

「・・・でも結果的にお前を起こしてやったのは、俺だけど?」

「それは・・・そうじゃが・・・。」

「ならいーじゃん。どれだけ人起こすってのが面倒で大変か、思い知るんだな。」

―――――――――――――― ・・・納得いかん・・・。」

「あ、そ。じゃあもう起こしてやらないから、これからは寝坊してソロイ様に怒られるんだな。
それかそこいらへんにいるヤツラに起こしてくれって頼めば?」

「・・・それは・・・・・・困る。」




・・・だろうね。・・・まぁ、頼んだら頼んだで、そんなこと許しはしないけどさ。
もう2度と、葵に近づく気が起きないくらいには・・・・・・ボコボコにしてやる。

・・・そうなるとわかってるから、ここには葵に手を出すヤツがいないってことも、わかってる。
俺とリュートがいなかったら、今頃大変なことになってるって・・・葵のヤツ、自覚してんのか・・・?




・・・いや、元から期待はしてないけどさ・・・(哀)




――――――――――― ・・・なら決定。よーし!万事解決したところで朝飯食いにいくかぁ!」




今はこれぐらいで勘弁しといてやるよ。
俺からの。見えない敵への、ささやかな抵抗。

これぐらいの役得は、あったっていいだろ?貰ってもいいよな?
・・・それぐらいのことは、俺だってしてるつもりだから。






ムチばっかじゃなくて、たまにはアメが欲しくなる。






「あ!ちょっと待てアーク!私はまだ納得したわけではないぞ!」




ハッとした葵が、俺の後を追ってくる足音。

歩幅が違うから、俺より早足に聞こえる。必死に追いつこうとしてる。
それが少し嬉しくて、妙に心地よく感じながら、俺は勝手に宣戦布告をする。
名前しか知らない、見たこともない敵に。


いくら長い間一緒に居たからって。今、いないんじゃ意味がない。

一緒にいたから呼んだっていうなら。
これからは俺がもっと近くに居続けて、家族よりも誰よりも。
・・・なによりも1番に、アイツの口から俺の名前がでるように。そんな存在になってやる。







――――――――――― ・・・いつか絶対・・・呼ばせてやるからなっ!







・・・しかし呼ばれたら呼ばれたで。
己の理性がもたないということに彼が気付くのは、一体いつのことか・・・













戯言。

はい、アーク×葵もどきです。
というか、どこかで似たようなネタを書いたな・・・と思ったら。
サモン夢のネタのストックでした(笑)

つまり。自分はどこまでいっても自分、と。
しょうもないヤツですねー、任那は。アハハ!!




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