ゴロゴロゴロ・・・




「ふぁわわっ、寝坊しちゃったよ〜〜〜ッ!!!」




そう叫び、少し乱れている髪を手で撫で付けながら、坂道をA・Tを履いて滑り降りる少女がいた。
彼女の名前は。東雲東中に通う、一見普通の女子生徒である。




「リンゴもイッキも酷いよっ!先に行っちゃうなんて・・・
ウメちゃんが気付いて、ミカン姉が起こしてくれなかったら
ずっと寝てたかもしれないじゃん!怒るぞ、こらぁっ!!」




独り言を呟きながら、彼女は肩にかけた通学鞄ごと両腕を振り上げ、怒る仕草をした。
はイッキ達と一緒に、野山野家の長屋に部屋を借りて住んでいる。
野山野家の三女・リンゴと、その居候・イッキは(も居候って言えば、居候。)
特にと同じ歳なので、小さい頃から仲が良かったし、よくつるんでいた。
だからは、リンゴやイッキとほぼ毎朝一緒に通学しているのだが・・・。
今朝が起きたとき、既に2人は家を出た後だったのだ。




「うぅ、イッキもリンゴもまだ見えないよ・・・なんで置いていっちゃうかなぁ?」




どこにでもいそうな普通の女の子。そんな形容詞がぴったりな
だが彼女には、到底“普通”ではないことがあった。それは
―――――― ・・・




「おっと、待ちな!!!」

「へっ!?」




の行く手に、他校らしき制服を着た数人の男子学生が立ち塞がる。
周囲には、朝だと言うのに自分以外に誰もいない。
仕方なくは、典型的なチンピラを地でゆく彼等に、おずおずと問いかけた。




「あの、になにか御用ですか?今、ちょっと急いでるんですけど・・・」

「この女で間違いねぇな?」

「はい、確かにこの女です。ベビーフェイスと一緒にいるところを見ました!」

――――――――― ・・・イッキに、御用のかた・・・なんですか・・・?」




が眉に皺を寄せ、ジリっと数歩下がりながら、不信感丸出しにいうと
男達は的を得たとばかりに、ニヤリとせせら笑う。




「自分がどういう立場か、わかってるみたいじゃねぇか。
・・・ヘヘ、お前にはベビーフェイスを誘い出すためのエサになって貰うぜ!」




言いながら、1人の男がズイっとに詰め寄った。
は出来れば、それ以上近づいて欲しくないと顔を顰める。




「・・・あれ?見てくださいよ、この女の足元!!A・Tじゃないっすか!?」

「確か、A・Tってかなり値が張るんじゃありませんでした?」

「するする!売っぱらったら、パーツバラにしてもかなりの高値付くぜ!!」




連中の1人が目敏くのA・Tに気付いた。その声を合図に、全員の視線がの足元に集中する。




「・・・ほぅ、そりゃいいもん見つけたな。ついでだ、そのA・Tも貰っとくとすっか。」




一際図体の大きな中心格らしき男が、のA・Tに手を伸ばした・・・





ドガッ!!





タイミングを見計らって、が男の顔を蹴り上げる!
の行動を予想もしていなかったのか、男は見事顔面に蹴りを食らった。




「がっ!!」

「大丈夫ですか!?リーダー!」

「てめぇこのアマ!!なにしやがる!?この人が誰だかわかってんか!?この人はなぁ・・・!!」


―――――――――― ・・・ガタガタうるっせぇんだよ、タコ。」


「「・・・!?」」




さっきまで勢い良く吼えていた男達が、ピタリと動き止めた。
そこにいた少女の雰囲気が、さっきまでとはまるで別人のようだったからだ。




「汚ない手でのA・Tに触んじゃねぇ、このクズどもが!!!
そっちこそ、このを誰だと思ってるっ!?とっとと失せるか、でなけりゃ死にさらせ!!!」




・・・そう!彼女こそ、その世界ではとても有名な、高速を誇るライダー“Blast wing”であり
スイッチが入ると人が変わってしまうという、特殊な性格の持ち主なのだ!
(そして言っておこう!決して二重人格ではない!車を運転すると性格が変わる人と同じ原理だ!)
彼女を知る人々はこれを、“B(ブラック)モード”と呼んだ・・・










▽ Human relations ▽










ガラガラガラ!





乱暴に扉が開かれる音がして、教室にいた生徒達の視線が自然扉に集まる。
なんてことはない、立っていたのはこのクラスに所属している少女だ。・・・だが違うのはその眼つき。
そこには、完璧にBモードに切り替わっている、の姿があった。
は普段とは打って変わってズカズカと、迷うことなく目的の席へ向かって歩いていく。
夜王の一件で、敏腕ライダーであることを学校中に知らしめたの迫力に
クラスの皆はサーッ!と左右に分かれてに道を譲った。
やがては目的の人物の座る席まで辿り着くと、そこでピタリと足を止めた。




「お。オッス、。」

「・・・あ?・・・?」




ふと差した影にその席の主イッキと、たまたま居合わせたカズは顔を上げ・・・





ドン!!!



「「ヒイッ!?」」




イッキが何かを言う前に、机の上に勢い良く何かが飛んで・・・もとい、投げ付けられた。
普段のが、このような乱暴な行動を取るわけがない。・・・ならば答えは1つしかなかった。




「・・・ど、どうしたんだよ、。朝からBモードバリバリじゃねぇか。」

「別に、大したことじゃねぇよ。」




がBモードに突入していることを察したイッキは
リンゴに言われたとはいえ、『と亜紀人(咢)を2人きりにしよう作戦☆』を決行し
先に登校したことへの後ろめたさから、(リンゴはイッキを亜紀人から引き離したかっただけ)
おそるおそる視線を上へ向けた。




「お、おはようございマス、さん!今朝は一体どうし・・・」

「・・・イッキ、もしかしてに何かやったのか?」

「いえいえ!!滅相もございません!様にそんな恐れ多い・・・!!」

「・・・なんか、したんだな(呆)」




いつもとキャラの違うイッキの言動に、カズは溜息をついて額を押さえた。




「・・・イッキ。テメェ、自分のケツぐらい自分で拭いとけ。」

「あ?そりゃ一体どういう・・・・・・ッ!?」




どうやら、イッキが想像していたことのとは違う原因で
Bモードになったらしいの様子に、今度はイッキが首を傾げた。
説明を求めて彼女を見ると、は先程イッキに投げつけたモノを、クイッと顎で指し示す。
そこでイッキは改めて、先程が投げてよこしたものに目をやった。




「こりゃあ・・・」




・・・改めて見ると、それは見慣れぬ学生鞄だった。
それだけだったらイッキも別段どうも思わないのだがその鞄の所々には、小さく紅いシミが飛んでいる。
しかも、完全には乾ききっていない・・・まだ新しい。




「その鞄の持ち主だ。ベビーフェイスを誘い出す気だったんだとよ。
・・・の割には、高くついたけどな。馬鹿なヤツ。」




それだけで、イッキもカズもの登校中に何があったのか、大体の想像が付いた。




!お前怪我は・・・いや、それよりもこの鞄・・・
返り血めちゃくちゃ飛んでるんですけどッ!?(焦)」


()ったのはじゃない。・・・・・・イッキ、飼い主ならちゃんと面倒見といて。」




カズが悲鳴をあげると、は疲れたように息を吐いて、ビシっと窓の外を指差した。




「はぁ?
―――――――― ・・・っでえ゛ぇぇぇッ!?




イッキとカズが、の指差す先に促されるまま目をやると
窓の外に見るも無残、体中に無数の切り傷をつくった男が、ブラブラとミノムシのように垂れ下がっていた。
否、吊り下げられている、というのが正しい。
・・・こんなことをするのは流石の東中といえども・・・いや、日本広しと言えどもただ1人しかいないであろう。
2人は慌てて窓から身を乗り出し、頭上を見上げた。




「あ、咢ッ!?」

「ファッキンガラス、ウスィーの!テメェら今までなにしてやがった!?
テメェらのせいでクソ共が(の周りで)ピーピーうるせぇんだよ!!ファック!!!


屋上にはイッキの予想通り、足に結んだフック付きの妙な紐で男を宙吊りにしている咢が
偉そうに踏ん反り返って(いつものことだ)いた。




「・・・が制裁を加えようとしたらね。どこからともなく飛んできて
(つまりは咢だったので、置いて家を出たらしい)そのまま暴れ始めちゃったの・・・・・・
“道”刻ませるのは流石に止めといたけどよ、お陰でこっちはちっともスッキリしてねぇ(ボソリ)」




ポカンと口を開けるイッキの横で、吊られている男の頭に
血のついた鞄をポンと乗せながら、が至極つまらなそうにそう言った。
亜紀人と咢のように、切り替わりが明確に見えないぶん
長年寝食ともにしているが、彼女の方が悪質かもしれない・・・
イッキは今更ながら、ふとそんなことを思った。




「咢!もういいから、離してあげて!」

「・・・フン。」




咢は鼻でそう返事を返すと、ヒュっと宙を舞い、器用にフックをはずす。
今まで吊るされていた男は、そのままドスン!と地面に落ちた。




「・・・オイ、ここって2階・・・(汗)」

「あれくらいじゃ人間死なないと思うから、心配しないで、カズ。
それよりもイッキ、もう2度とくだらない喧嘩に巻き込まないでねっ!
、朝から疲れた!そもそも、イッキとリンゴがのこと置いていかなければことは簡単に済んだのに!!
馬鹿っ!素人っ!
・・・小物っ!!(視線を下半身にやりつつ)」


「―――――――――― ・・・小物ッ!?(ガン!!)」




そんな他愛もない(?)言い争いをしていると
3人が離れた窓からひょいっと、咢が滑り込むようにして教室に飛び込んできた。




「・・・おい、。」

「なに、咢?
――――――― ・・・っていうか必要以上近づくな。さっさと亜紀人を出せ。」




自分に向かって歩いてくる咢に、が警戒態勢を強くする。・・・咢がニヤリと笑った。




「この礼は、テメェの身体で払ってくれりゃいいぜ。」

「「「―――――――――― ・・・は!?」」」

「だから、さっき助けてやっただろ!?それに見合った礼寄越せって言ってんだよ、ファック!!」

「勝手に割り込んできた上に謝礼までとる気なのか、テメェはッ!?このサイコ野郎が!!
そもそもテメェまだ童貞だろうがッ!?寂しく1人で本でも見ながらヤってろッッ!!」




教室中を左から右へ、右から左へ、汚い言葉が飛び交い。
みんな巻き込まれないよう、それぞれに教室の端に避難する。
これももう、亜紀人&咢が転校してきてから、名物になりつつある光景だ。
・・・なのでみんな、手際の良いものである。

口ではそう反論しながらも、VS咢の戦い(バトル)(?)は、明らかにの劣勢だった。
咢が1歩踏み出す度に、がジリ、と1歩後退さる。
Bモードに入ったにも、たった1つだけ苦手なものがあった。


それが、今目の前にいるこの咢である。
日々の習慣とは恐ろしいもので、毎日何かに付けては追い掛け回された為

“咢=恐ろしいもの、油断ならない、猥褻物”(←コラ)

・・・という公式がの中では構築され、ミッチリ刷り込まれているのである。




「・・・ならお前の大好きな亜紀人も、そのサイコ野郎とやらだな!」

「亜紀人はいいの、亜紀人だからっ!!!」

「一体どーゆー理屈だそりゃ?ファック!!!」




ところが困ったことに、はこの咢と体を共有しているもう1人の人格。
亜紀人のことが大好きなのである!
そのため、いつ入れ替わるのかとヒヤヒヤしながらも、1日の大半を共に過ごすことが多い。
しかも彼が現在住んでいるのは、野山野家の長屋。
―――――――― ・・・つまりそこは、の家でもあるのだ。
・・・そんなわけで、は今まさに“恋する乙女は命懸け”を実践中なのである。

はちょっとばかり現実から逃避したくなり、パタパタと鳥たちが楽しそうに飛ぶ、青い空へと視線を移した。






・・・あぁ、ライダーになってから色々あったなぁ。

(↑逃避し過ぎです)





ライダーになってから、は色んな人に出会ったし、色んなことを知った。
けれどもその中で、咢との出会いは、の思い出に残る出来事、ワースト3に入るだろう。






・・・ゴンゾーおじさんにも会えたし、シムカちゃんともお友達になれたし。
なにより、イッキがA・T始めたしねぇ・・・そんでもって咢に・・・はああぁぁ・・・(深すぎる溜息)






「ハッ!余所見なんかしてる暇あんのかよ!?」




ダン!と咢が壁に手を付いた音で
ぼうっと回想に浸っていたは、ここが教室であることを思い出した。
背後は既に壁。教室のドアから外へ出るには
咢の横をすぐ脇をすり抜けなければならないが、そんなことを彼が許してくれる筈もない。
目の前の咢ばかりに気を取られて、逃げようのない位置へ誘導されていることに気が付けなかったのだ。




―――――――――― ・・・しまった!?(ぼけっとしすぎた!)」




亜紀人はがちょっと背伸びをすれば、顎の下にスッポリ納まってしまうぐらいの身長だ。
それは咢になったってちっとも変わらない筈なのに
は彼が咢になった途端、身長が数センチ伸びたような感覚にいつも襲われる。




「逃げ道もなくなったみたいだなァ・・・?いい加減諦めたらどうだ?
今なら1回払いで済ませてやるよ。」




・・・何が1回払いなのかは、想像に難くない。の背中を、冷たいものが走った。
焦るを見てニヤリと笑う咢の表情は、いつもより数段凶悪面に見える。
勝利を確信したのか、咢は余裕綽々の動作で、をじわりじわりと追い詰める。
どうやら、捕まえた獲物をいたぶってから食べるのがお好きなようだ。





流石鰐島兄弟、血は争えんな。





そんなことを思うが、まだ死にたくないので口にはしないでおく。
咢は完全に勝利を治めたつもりでいるようだったが、はまだ諦めていなかった。
否、諦めるにはまだ早すぎる。活路というのは、突然開けるものなのだから。
そして必要以上にゆっくりゆっくり詰め寄ってくる咢の、余裕たっぷりのその態度に、は活路を見出した。
咢がの顎に手を掛けた、その一瞬の隙を狙う・・・!!





――――――――― ・・・今だっ!





「馬鹿がっ!油断大敵だぜッ!!!」

「・・・ッ!?」




は素早く、眼帯を左へずらした。
――――――― ・・・いや、ずらそうとした。
急いだせいか眼帯は少しずれただけで、完全に右目を覆い隠すまでには至らない。
けれどには、たったそれだけで十分だった。





――――――――― ・・・ガシュッ!!





「くっ!?」




何故なら、も未だA・Tを履いたままだったからだ。
身軽さが売りでもあるの走りには、咢がちょっと眼帯を気にするだけの時間でも十分な猶予になる。
はあっという間に窓から外に飛び出して、咢が気付いたときには、真っ青な空を飛んでいた。




!!!」

「フン!テメェもライダーなら、A・T(コイツ)で勝負しろよ!
それとも、に勝つ自信がないのか?・・・ハッ!ちっせぇ、ちっせぇよ咢!!!
所詮チビは、度胸もアソコもチビってことか!?情けねぇ、イッキのことは言えねぇな!!」

「(俺を引き合いに出すなよ・・・ッ!!!/汗)」

「ファック!!!!!言いやがったな、・・・!!
逃がすかよッ!!捕まってから泣いて媚びても、もう聞かねぇぜ・・・!!!」




咢はイッキを一睨みしてから、ニヤリと怪しげな笑みを浮かべると
すぐさま床を蹴って、広い空へと飛び出していく。
こうしてVS咢のバトルは、教室から空へと舞台を移したのである。
ポツン、と取り残されたイッキとカズは、同時にはぁ・・・と深い溜息を吐いた。




「・・・アイツラ2人、学校来た途端そのまま一緒にエスケープかよ。来た意味あんの?」

「さぁな。それよりも、死体ぐらい自分達でどうにかしてけよなー。
オーイ!さっき落ちたやつ、生きてっかぁ?」




イッキが呆れたように溜息を吐いて席に戻り
カズが地面と顔全体でキスした男を、同情の籠った眼差しで見る。
こうして、まさに字のまま嵐を駆る者(ストーム・ライダー)である2人が去った後の東中に
今平和な日常(?)が取り戻されつつあった。







―――――――― ・・・果たしてこれが平穏と呼べるのかは、また別の話ではあるが。















戯言。


はい。ノリと愛だけで暴走、突っ走ってしまいました。
エア・ギア、咢(・・・亜紀人もと言えるのだろうか?)夢です。

そして今回の名前変換ですが、ほとんどカタカナの名前しか使わないのに
わざわざ漢字名と両方登録する形式をとっているのはですね
そっちの方がクッキーの関係上というか性質上、管理がしやすいからなんですよ(笑)
・・・まぁ、それにたま〜に漢字もひょっこり出て来ますので
登録して置いてくださると、わざわざjavaを組み込む必要もなくて◎です。

・・・さて今回のお話は、ちょっと(?)風変わりな主人公、ちゃんの紹介を兼ねて
彼女を取り巻く人々との関係を知っていただこうというのが本筋でありました。

ともあれ、こういうタイプの主人公は、任那初書きのような気がするのですが
読んでくださっている方はどう感じられるのでしょう?
同じ人間が書いているものなので、どうしても傾向とかセリフとか
その他様々なものが似てきてしまいますが、出来るだけ同じにはならないように
少しでも差を付けようとは心がけているのです。努力だけはしてます(笑)

ちなみに、作品のせいもありますが
言葉使いの汚さや、お下劣さは任那の本領発揮でもあります(笑)
・・・いえ、任那決して。お世辞にも上品とは言えない土地柄で生活しているもので。





ブラウザバック推奨。